「風を待つ流星」
私はずっと星を探していた。 また流星が流れたのが見えた。 違う。あれは私のものじゃない。
そんなことを、今まで何度繰り返してきただろうか
私が初めて流星を見たのは、大学に入ってはじめての冬だった。
凍てつく夜は磨き立てのビールグラスのように澄んでいて、鋭い寒さを忍ばせていた。
マフラーの中にまで入はいりこんだそのかけらは、氷でできた小さな鳥になり、私の首をついばんだ。
ふと見上げた夜空は、夏の花火がそのまま化石になったように光が散らばり、オリオンのベルトは栄光を見せつけるかのように誇り高く輝いていた。
私はそんな中、はじめて流星をみた。
遠くの惑星から巨大な怪獣が光線を吐くように、赤く光っていた。
赤色は次第に夜の深い青に染まり、エメラルドグリーンに輝き始めたかと思うと、小さなかけらをぱらぱらと落としながら、私の頭上を一直線に駆けていった。
私はその軌跡をずっと見つめていた。小さな鳥は、静かに興奮した私の体の温度に耐え切れず、いつの間にか溶けていった。
それから私は流星を見ることはなかった。見ようとしなかった。
実際、就活とアルバイトで私の時間は削られ、小さな鳥も見えなくなった。
私はまたあの光に想いを馳せていた。今日も私は夜空を見上げる。
それでも星は流れなかった。来月から新しい場所での生活が始まろうとしていた。
その夜、私は久しぶりに夢をみた。
私は下が見えないくらい高い木の上にいて、風を待っていた。
一番いい風は春に吹くのだ。青い夢の匂いを纏わせた、新鮮な風だ。
私は身動きひとつせず、静かに時を待った。
そして、ついに風が吹く。私は自分のエリマキを思いっきり広げ、眩しく発光した。
途端、私は真っ暗な夜の中に飛び込んだ。
四肢を目一杯伸ばし、風に乗るための膜を広げると、長いしっぽをぴんと緊張させた。
どこを目指しているかはわからない。きっと、そんなところはないだろう。
私は自分が、流星になっていることが心地よかった。私は確かに光りながら、限りない空の中を飛んでいた。
ふと下を見ると、マフラーをした青年が私を見上げているのが見えた。