「惑星の魚」
ここはどこだろうか。
もう、随分と深く潜ってきたと思う。
息はし辛い、それでも、私は目一杯息を吸う。
微かな空気の震えだけがある。
時々、遠くのほうで小さな光がちかちかと光っては、消えていく。
蛾が、微かな外灯に向かうように、私にも向かうべき小さな光があった。
それは、私の宝物。自分が作り出した、偽物の光。
この光のために、様々なものごとを犠牲にしてきただろう。
それでも、私はこの光のすべてが好きだった。
小さな夢たちは、衛星のように私の周りをくるくると廻りながら、私のこと気にかけ、背中を押してくれていた。
時間が過ぎたら、私は彼らのことも忘れてしまうだろう。
涙が私の目を覆う。目の前の光でさえ、形を持たない単細胞生物のようにぐらぐらと歪んだ。
その時、私は遥か遠くで月を見た。
月の周りで小さな光が微かに光っては消えた。
月は真冬の惑星のように鼓動してみえた。
鼓動が、空気を揺らしているのがわかる。
それは私の微かな光を呼応させ、西日が差す窓のようにオレンジ色に輝いた。
光は進化する細胞のように激しく形を変えながら、最後は小さな鳥になった。
鳥は私のことをじっと見つめる。
私は、自分が生きていることを思い出した。
今までちゃんと息をしてきた。
この深く暗いところで、ひとりだけで。
そして、きっとこれからも。
私は一寸先も見えない底を見据えた。
いつか私も、誰かの星になれるだろうか。
私は静かに目を閉じて、大きく息を吸った。