「海の音を聴くカロン」
子供のこと、父と一緒に海に来たことがる。
貝を拾いに来た気がする。
私はズボンの裾を濡らして、不快で泣いた。
その後私は早々に貝拾いに飽きて、潮溜まりを見ていた。
水面は真夏の灯りに照らされて、細かなリズムを刻みながら複雑に輝いた。
大きな海に残された、小さな海のようだった。
実際、潮溜まりの中は様々な命で溢れていた。
小さなカニが忍者のように底を横切り、巻貝は「だるまさんがころんだ」みたいにして微かに歩いていたし、磯巾着はまだ大きな海とも思い出の中にいた。
それはまるでひとつの惑星のようだった。
気づくと、私はその潮溜まりの中から、無数に仕切られたステンドグラスのような波を見上げていた。
ステンドグラスに遮られた夏の音色は、公園の土管の中のように籠って聴こえた。
その時私ははじめて自分の心臓の音を聞いた気がした。
鼓動は夏の音の中で混ざり合い、遠い昔のことのように朧気になった。
いつの間にか月が顔を出していた。
小刻みに動くステンドグラス越しの月は、父に怒られて泣いたときに見た、天井の灯りと同じように歪んで見えた。
私はこの小さな世界の、生き物のひとつになった。
私はしばらく、取り残された小さな海の中で、月と一緒に波の音を聴いていた。
遠くで、父が私の名前を呼んでいるのが聞こえた。