月が泣いた夜
もうみんなが集まっていた。
みんなはドーナツのように、真ん中にぽっかりと穴を開けてその時を待っていた。
真ん中には、巨大な塔が立っている。白い、まるで大きなろうそくのようなそれは、てっぺんに大きな竜を乗せて、遥か昔からずっとそうしてきたみたいに立っていた。
竜は少し緊張しているように見えた。鼻を少しだけピクっとさせた。
彼の頭上にはまんまると太った満月があった。大きく見開いた目のような月だった。
その目は徐々に目を閉じていき、その丸みをなくしていく。この金色の目は段々と、ハチミツをかけた黄金のパンケーキのように懐かしく透けていくった。
月がついに目を閉じる。まん丸だった月はちょうど弓の形になり、ついに一滴の涙を絞り出した。
ハチミツみたいなそれは、竜の王冠の上にぽたりと落ちた。その瞬間、大きな雨粒が落ちた動物みたいに体をぶるっと大きく震わせ、巨大な翼を思い切り広げた。
ハチミツは王冠の上にあった街を、まるで琥珀の中にある化石のように朧気に見せた。
それは遠い記憶の片隅にある夕焼けのようだった。
ハチミツは次第にその色を濃くし、燃え盛るような赤色になった。その途端、竜をその凄まじく勢いを増した炎で包みこんだ。
その炎の光に導かれた流星たちが次々に炎に飛び込んでいく。
彼らはパチパチッと音を立ててみんな死んでいった。
塔の下のみんなははじめてこの夜が照らされたことに気づく前に、夜は光になったのだと思った。塔は大きなろうそくになれたのだった。
ショートケーキの一番上の、息を吹かれる前のあのろうそくだ。
あの祈りのような、一瞬の。